泌尿器科|国立病院機構熊本医療センター

泌尿器科

泌尿器科部長あいさつ

当科では、救急疾患ならびに“がん”診療を中心に治療に当たっています。
救急疾患に関しては、年間約700~800人の方が泌尿器科疾患で救急外来に搬送あるいは受診されます。尿路外傷や尿路感染に伴うショック状態など重篤な患者様の治療も対応しています。
がん診療に関しては、当院は地域がん診療連携拠点病院ですので、標準的な治療はすべて行っていますが、加えて当科ならではの診療も提供しています。
腎臓がんにおいては令和元年より局所麻酔下に可能な凍結治療(がんを凍結針で凍らせて死滅させる)を開始し約2年で33例を経験しました。県外から凍結治療を目的に紹介・受診された患者様も6名おられます。
膀胱がんは年間受け入れ数約300人で県内の医療機関ではトップ。全国的にも有数な施設となっています。令和2年から、筋層非浸潤膀胱がんに対して再発率の低下を目的に光線力学診断技術(ALA-PDD)を開始しました。
前立腺がんでは前立腺を切除しない密封小線源治療(ブラキセラピー)を推進しています。平成30年から全例にスペースOARシステムを導入し、放射線合併症防止にも努めています。現在まで331症例施行し、膀胱がん治療に加え、密封小線源治療においても全国ハイボリュームセンターの仲間入りをしました。今年度からはこの密封小線源治療を利用して前立腺がんの存在する部位を中心に治療を行う前立腺がん部分治療(Focal therapy)を本格的に開始する予定です。
がん治療と機能温存(尿禁制、性機能)の両立をめざします。
新規抗がん剤の臨床治験も製薬企業から選定を受け、グローバル治験を中心に多く実施しています。現在、約40名の患者様に治験参加・ご協力頂いています。
今後も良質で安全な医療の提供とともに、低侵襲な、いわゆる体に優しい治療もテーマに国立病院ブランドを発信していきたいと考えています。
泌尿器科スタッフ全員、常に医療知識・技術をアップデートし、患者様に寄り添い、信頼ある診療ができるように努めてまいります。

診療内容・特色
尿潜血精査から尿路・性器悪性腫瘍、小児泌尿器科、尿失禁・下部尿路機能障害、男性不妊症まで泌尿器科全般の治療を行っています。特に、尿路・性器腫瘍(腎細胞癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌)の治療には力を入れており、膀胱がんを中心とした尿路上皮腫瘍は症例数、手術数においても国内有数です。また、平成24年1月より前立腺肥大症に対してグリーンライトレーザーによる 経尿道的前立腺蒸散術(PVP)を開始、平成26年3月からは放射線科の協力のもと、前立腺がんに対する 密封小線源治療(ブラキセラピー)を導入しています。平成27年1月には ホルミウムレーザーによる尿管結石の治療(f-TUL)も可能になりました。男性不妊症の診断、治療にも力を入れています。また、当院救急救命センターに救急搬送される泌尿器科疾患(尿路外傷、重症尿路感染症等)にもすべて対応しています。
令和元年6月より小径腎細胞がん(4cm以下)に対して凍結治療(クライオセラピー)を開始し、33例ほど経験しました。 令和2年4月より表在性膀胱がんに対する5-アミノレブリン酸による蛍光膀胱鏡を用いた光線力学診断技術ALA-PDDを導入しています。
*日本泌尿器科学会認定指導施設の認定を受けており、指導医3名 専門医5名含め計7名で診療に従事しています。

医療設備
内視鏡手術システム(3台)
グリーンライトレーザー装置、超音波診断装置(2台)
尿流動態検査装置(AQUARIUS CTS)
軟性膀胱鏡ビデオシステム、 TURisシステム
密封小線源治療計画装置、space OARシステム
ホルミウムレーザー装置
超音波砕石装置(リトクラストマスターJ)
凍結手術器(Cryo Hit)
光線力学診断技術(ALA-PDD)

症例数・治療・成績
病棟は常時30~40名の入院があります。令和2年度の新入院患者総数は1,209名でした。平均在院日数も10.3日です。外来はのべ11,544名(新患者紹介679名)の新患紹介・受診がありました。尿路悪性腫瘍を中心に診療をおこなっており、特に腎臓がん、膀胱がん、前立腺がん、精巣がんなど多くの患者様を紹介頂いています。
膀胱がん症例の約8割は内視鏡下切除(TUR-BT)にて治癒可能です(昨年度症例数201例)。内視鏡的治療が困難な浸潤性膀胱がんで膀胱温存を目指す場合は、放射線科の協力で抗癌剤動脈内注入療法を施行後、内視鏡切除術・放射線照射を追加します。膀胱全摘が必要な場合は、尿路変更としてストーマ(尿袋)の要らない自然排尿型新膀胱形成術(Studer変法)も取り入れ、個々の症例に応じた治療を行っています。現在までに約416例の膀胱全摘術を経験しており、症例数としては国内トップレベルです。
増加の著しい前立腺がんに対しては、まず1泊入院で針生検を行い外来で病期診断を行った後、治療方針を決定します。ホルモン治療や手術療法、放射線療法(±ブラキセラピー)など、総合病院の特性を活かした治療選択枝を揃え対応しています。特にブラキセラピーは患者様の希望も多く、現在週1例のペースで施行し、治療開始より331名ほどの治療経験を得ました。初期のブラキセラピーの適応は低リスクの前立腺癌のみでしたが、現在では適応拡大され高リスクまで行うようになり、ブラキセラピー+外照射+ホルモン療法で行うトリモダリティではどの治療法にも負けない成績が示されています。ただ、照射線量が増加するにつれ合併症である放射線性直腸炎で苦慮する症例もでてきため、平成30年7月より全例にspace OARシステムを導入しました。これは前立腺と直腸の間に留置する合成吸収性スペーサーで放射線治療を行う際に懸念される放射線性直腸炎の低減において臨床的な有用性が示されており、今後さらに低侵襲性の前立腺がん治療ができるものと確信しております。
腎臓がんに対しては鏡視下手術も含め、種々の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤による治療も行っています。さらに、小径腎がん(4cm以下)に対して凍結治療が可能になりました。がんを凍らせて死滅させる治療法ですが、局所麻酔下に可能なため、合併症や高齢、多発腫瘍などで標準治療である腎部分切除術ができない方や本治療を希望される方が対象になります。
治療診断の付きにくい腎盂・尿管腫瘍は積極的に尿管ファイバーを施行し、可能な症例については腎臓温存術も行っています。当科ではホルミウムレーザーに加え尿管切除刀も所有しているため、県内で唯一尿管内内視鏡治療が可能です。
女性の尿失禁手術(TVT,TOT手術)もこれまでに78例ほど行い、骨盤臓器脱手術(TVM)も77例ほど経験し良好な成績をあげています。
平成24年1月に全国に先駆け導入したグリーンライトレーザーによる経尿道的前立腺蒸散術(PVP)は出血もほとんどないため1週間弱の入院で治療可能です。現在までに517例程の患者様がグリーンライトレーザー治療を受けられました。
また、平成27年1月よりホルミウムレーザーを新たに導入し、尿管結石の治療も可能になりました。急性期病院の使命として、主に体外衝撃波治療で砕石できなかった患者様や全身状態が悪いリスクの高い患者様などを対象にしています。現在までに404名にレーザー結石破砕術を行いました。
さらに、数年前より男性不妊症の診断、治療にも力をいれており、現在まで222名程の患者紹介があり、57名程が精索静脈瘤手術(ドップラー血流計を用いた低位結紮術)を受けられています。この手術により平均10倍ほど精子数が増加し、自然妊娠にいたった患者様もおられます。少子化対策の一環として、この分野にも積極的に参加していきたいと考えています。
令和2年度の麻酔科管理総手術件数は595件でした。

スタッフ紹介
職名 氏名 免許取得年 | 専門医 所属学会 など | 専門分野 |
地域医療連携センター長 診療部長 泌尿器科部長 キクカワ ヒロアキ 菊川 浩明 平成2年 | 熊本大学大学院 医学博士 日本泌尿器科学会認定指導医・専門医 日本泌尿器科学会評議員 身体障害者福祉法認定医(膀胱) 日本がん治療認定医機構暫定教育医 熊本大学医学部 臨床教授 厚生労働省緩和ケア研修修了 APRIN e-ラーニングプログラム修了 | 泌尿器科悪性腫瘍 (膀胱癌、前立腺癌、腎臓癌など) 凍結治療、密封小線源治療 救急疾患(尿路外傷、重傷感染症) 神経因性膀胱、排尿障害 鏡視下手術 婦人泌尿器科 (尿失禁、骨盤臓器脱) 男性不妊症 |
泌尿器科副部長 マエダ ヨシヒロ 前田 喜寛 平成15年 | 熊本大学大学院 医学博士 日本泌尿器科学会認定指導医・専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医 身体障害者福祉法認定医(膀胱) 厚生労働省緩和ケア研修修了 APRIN e-ラーニングプログラム修了 | 泌尿器科悪性腫瘍 (膀胱癌、前立腺癌、腎臓癌など) 免疫療法 神経因性膀胱、排尿障害 救急疾患 鏡視下手術 婦人泌尿器科 (尿失禁、骨盤臓器脱) |
泌尿器科医長 メカル シンゴ 銘苅 晋吾 平成22年 | 日本泌尿器科学会認定専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 厚生労働省緩和ケア研修修了 身体障害者福祉法認定医(膀胱) APRIN e-ラーニングプログラム修了 | 泌尿器科悪性腫瘍 尿路結石、感染症 神経因性膀胱、排尿障害 尿流動態検査 凍結治療、密封小線源治療 鏡視下手術 |
泌尿器科医師 サメシマ トモヒロ 鮫島 智洋 平成24年 | 日本泌尿器科学会認定専門医 厚生労働省緩和ケア研修修了 APRIN e-ラーニングプログラム修了 | 泌尿器科悪性腫瘍 尿路結石、感染症 神経因性膀胱、排尿障害 凍結治療、密封小線源治療 鏡視下手術 男性不妊症/婦人泌尿器科 |
泌尿器科医師 チカウラ ケイタ 近浦 慶太 平成25年 | 日本泌尿器科学会認定専門医 厚生労働省緩和ケア研修修了 APRIN e-ラーニングプログラム修了 | 泌尿器科悪性腫瘍 尿路結石、感染症 神経因性膀胱、排尿障害 凍結治療、密封小線源治療 男性不妊症 鏡視下手術 |
泌尿器科医師 ヤマナカ タツロウ 山中 達郎 平成27年 | 日本泌尿器科学会 厚生労働省緩和ケア研修修了 | 泌尿器科悪性腫瘍 尿路結石、感染症 神経因性膀胱、排尿障害 凍結治療、密封小線源治療 |
泌尿器科医師 ヒガシ シュンノスケ 東 俊之介 平成30年 | ・日本泌尿器科学会 ・厚生労働省緩和ケア研修修了 | 泌尿器科悪性腫瘍 尿路結石、感染症 神経因性膀胱、排尿障害 凍結治療、密封小線源治療 |

今後の目標・展望
平成26年3月より前立腺がんに対して開始した密封小線源療法(ブラキセラピー)は手術に劣らない効果があり、手術療法の合併症としてみられる尿失禁、勃起障害(ED)にもほとんど影響を与えないなど、患者さまのニーズに合った治療法として定着しました。そのため治療希望者が多く、患者様には治療開始までしばらくの間お待ちいただかねばなりません。前立腺がんは他のがんと異なり、一般にゆっくりと進んでいくことが分かっています。紹介いただきました患者様は、治療日まで紹介元の先生のところで、経過観察あるいはホルモン療法を継続して待機いただくことになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
今年度からはこの密封小線源療法(ブラキセラピー)を使用し、前立腺がん部分治療(Focal therapy)にも取り組む予定です。
また、ホルミウムレーザーに加え超音波砕石装置(リトクラストマスターJ) も導入しましたので、これまで常時できなかった腎・尿管結石の治療もf-TUL、PNLを中心に可能となりました。尿路結石の内視鏡治療はすべて施行していますので、お困りの患者様がいらっしゃいましたらご紹介の程お願い致します。
令和元年5月より小径腎がん(4cm以下)に対して凍結治療(クライオセラピー)を開始しました。全国で26施設目の導入であり、専用の凍結針でがんを凍らせて死滅させる治療です。局所麻酔で可能であるため、さらなる低侵襲治療として確立していきたいと考えています。
排尿動態検査装置も令和元年に最新機(AQUARIUS CTS)を導入しました。
検査がスムーズに行くように、院内での体制も整いましたので、排尿障害で悩まれている患者様に対してある程度正確な診断が下せるものと考えています。院内で立ち上げました排尿ケアチームと共に排尿障害に関しても積極的に取り組んでいきたいと思います。
ウログラムカンファレンスのご案内
毎月第2火曜:午後7時より3階第1カンファレンス室にて放射線科の先生方を交えて、症例検討会を行っています。登録医あるいは開業医の先生方で、診断に迷う症例、お困りの症例等ございましたら、ぜひご参加お願いいたします。山本敏廣元泌尿器科医長、古閑幸則元放射線科医長が始められた合同カンファレンスですが、開業医・泌尿器科医・放射線科医の立場から様々な討論ができており、お互いに勉強できる会として25年ほど継続しています。