糖尿病・内分泌内科|糖尿病センター|国立病院機構熊本医療センター
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糖尿病センター
糖尿病・内分泌内科
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糖尿病・内分泌内科部長あいさつ
当科の対象疾患は、糖尿病をはじめとした、高脂血症、痛風などの生活習慣病、下垂体・甲状腺・副腎などの内分泌疾患、低・高ナトリウム血症、低カリウム血症、低・高カルシウム血症などの電解質異常など広範囲に及びます。このような疾患をお持ちの方に最善の医療を提供できるよう、医局員一同、日々努力しております。
特に、当科が力を注いでいる病気は糖尿病です。糖尿病は現在、日本人の約7%、890万人が罹患する国民病です。初期にはあまり症状はないとも言われていますが、放置しておくと、高血糖緊急症のため意識障害を引き起こすことがあります。未だに高血糖緊急症では死亡率が10~20%とも言われています。また長期間の血糖管理不良は網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化症などの血管合併症を来し、最終的には失明、透析、下肢切断、心筋梗塞、脳卒中などを引き起こします。糖尿病合併症の進行は患者さんのQOLの低下、死亡率の増加を招くのです。
合併症予防のためには、①合併症の原因である高血糖、過体重、高血圧、コレステロール高値などを良好に管理すること、②合併症に対して適切な知識を持つこと、③自分の合併症の状態を知ること、のすべてが必要です。そしてこれらを成し遂げるためには患者さんの協力が欠かせません。むしろ糖尿病治療における本当の主治医は患者さん自身であるとも言えます。当科では、糖尿病患者さんに糖尿病に対する正しい知識を修得頂けるよう糖尿病教育に重点を置いています。そして患者さんに応じた適切な食事療法、運動療法、薬物療法を提案していきます。
今後も多くの患者さまに対して質の高い医療を提供出来るよう医局員一同努力を続けて行きたいと思っております。
糖尿病・内分泌内科部長 西川武志
診療内容・特色
糖尿病・内分泌内科は、「地域医療と連携した全人的な診療」をキャッチフレーズとして、代謝疾患(糖代謝異常(糖尿病、妊娠糖尿病、高血糖緊急症、低血糖症)、脂質異常症(家族性高コレステロール血症など)、高尿酸血症、内分泌疾患(下垂体疾患、甲状腺疾患、副甲状腺疾患、副腎疾患)、電解質異常(高ナトリウム血症、低ナトリウム血症、低カリウム血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症)の診療を行っています。
当院の診療の柱である急性期疾患に24時間対応するとともに、当科の疾患特性である慢性期管理に質の高い医療サービスを提供しています。また、全人的な治療を目指して、人間性のある対応、地域医療サービスとの有機的な連携を目指しています。
教育研究
教育・研修施設として日本内科学会認定教育施設、日本糖尿病学会認定教育施設、日本動脈硬化学会認定教育施設に認定されています。
また研究としては、血糖コントロール、糖尿病細小血管合併症、糖尿病大血管合併症、高血糖緊急症、妊娠糖尿病などに関するものを行っています。その内容は日本糖尿病学会、日本糖尿病学会九州地方会、内分泌学会九州地方会、日本体質学会、日本病態栄養学会などで学会発表を行いました。特に、「妊娠糖尿病の病態解析研究」についての研究成果は、Journal of diabetes investigation誌に投稿し、採択されました(平成30年3月)。
なお、平成29年11月より、西川武志部長は熊本大学大学院医学教育部臨床国際協力学分野客員教授を併任することになりました。
ご案内
臨床面では、平成26年4月より新患と再診の外来を分けました。この新患外来は月曜から金曜まで毎日行っています。ご紹介頂いた患者さんを待たせることなくスピーディーに診察・検査します。また2種類の糖尿病教室を開催しています。1つは外来患者さんを対象とし、糖尿病患者会(ぎんなん会)との共催による季節ごとの糖尿病教室です。年に3回テーマをもうけて定期的に開催しており、この時同時に試食会(無料)を行っています。もう1つは入院患者さんを対象とし、毎週行っている糖尿病教室(やさしい糖尿病教室)で、少人数を対象にしています。1週間、5コマを1セットとし、医師、看護師、薬剤師、検査技師、管理栄養士が講師となり、糖尿病診療に必要な知識と技術を習得いただけるよう行っています。いずれの教室も参加者とのコミュニケーションを大切にしながら楽しく学べるように心がけています。さらに今年度はより積極的にベッドサイド型人工膵臓を活用した血糖管理、検査を行っていきたいと思っています。
研究面では、平成30年に「妊娠糖尿病の病態解析研究」、令和3年に「高血糖緊急症の病態を解明するための後ろ向き観察研究」の論文採択が決まりました。今後は現在進行中の「抗GAD抗体陽性妊娠糖尿病患者のフォローアップ研究」を進めていくとともに、新たに血糖コントロール、糖尿病合併症、高血糖緊急症、妊娠糖尿病に関する臨床研究を開始したいと考えています。
肥満症
肥満症とは
身長に比較して体重が重い状態を肥満と言います。具体的には、体格指数(BMI)が25以上の場合が肥満です。
肥満症は肥満による健康障害(合併症)が1つ以上あるか、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に診断されます。肥満症の方は、減量により、肥満による健康障害(合併症)の改善が期待できるため、医学的治療の対象になります。
※体格指数は(BMI=体重[㎏]/身長[m]2)で計算します。
※内臓脂肪蓄積は、当院では腹部CT検査を行い、正確に診断しています。
※BMIが35以上の場合を高度肥満と言います。
※肥満に伴う健康障害がない場合は医学的治療の対象にはなりません。
症状(健康障害)
肥満に伴う健康障害はたくさんあります。例えば、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、高尿酸血症(痛風)、心筋梗塞、脳梗塞、脂肪肝、月経異常(不妊)、膝痛や腰痛、睡眠時無呼吸症候群 などです。
減量により、これらの健康障害が改善することが期待できます。
検査
肥満はさまざまな原因が関与していると考えられています。社会や環境の要因 、遺伝因子、ホルモン分泌異常などさまざまな側面から肥満の要因を検討します。
また、肥満は様々な健康障害を引き起こします。健康障害の状況を調べるため、血液検査、生理検査、画像検査など、各種検査を行います。
※当院では、全身用X線骨密度測定装置(PRODIGY Fuga Advance) を導入しています。この機械を用いて、全身の筋肉量、脂肪量を部位別に測定することができます。
治療方針(内科治療)
食事療法、運動療法 、行動療法、薬物療法を行います。効果的な薬物療法も開発され、内科的治療は大きく進化しています。
※行動療法とは、自分の食生活や生活習慣の誤りを調べて、それを是正して減量に導く方法です。
※肥満症の薬物療法は、GLP-1受容体作動薬(飲み薬と週1回の注射薬があります)の登場で大きく変わりました。GLP-1受容体作動薬は血糖値を下げる作用だけでなく、食物の胃での停滞時間を長くして摂取した食物の胃からの排泄を遅らせたり、食欲を抑えたりする作用もあり、それらの効果により、肥満を改善します。ただし、現時点ではGLP-1受容体作動薬は糖尿病が合併している方のみが適応です(今後、他の肥満に伴う健康障害に対しても、保険適応の拡大が予定されています)。
治療方針(外科治療)
BMIが35以上の高度肥満の方で、6ヵ月の内科治療にもかかわらず、減量効果が十分に得られず、糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群のうち1つを満たす方には、減量を目的とした外科治療も適応となります。手術を受けることになれば高度肥満症の患者さんは通常より手術リスクが高いため、手術を安全に受けていただけるかどうかを調べるための各種検査を受けていただきます。
※外科治療として、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術 があります。腹腔鏡下スリーブ状胃切除術では、腹腔鏡を用いて、胃の外側を切除します。胃を小さくして食べる量を少なくするだけでなく、胃からはグレリンと呼ばれる食欲増進ホルモンも出ているため、手術後は多くの方で食欲が低下します。
肥満に対しての外科治療は九州では、九州大学病院、九州医療センター、大分大学病院でのみ実施されています。当院では九州大学との連携により、熊本県で初めての肥満外科治療が行える医療機関となるため、現在準備を行っています。
医療設備
1. 血糖コントロールに関する設備として、ベッドサイド型人工膵臓(STG-55)、持続皮下インスリン注入器(パラダイムインスリンポンプ712、トップシリンジポンプTOP-8200)、持続血糖測定装置(iPro2)、血糖測定POCT機器(グルテストミント)があり、最新の医療技術に基づいた治療が可能です。
2. 糖尿病の病態を解析するため、HOMA-R、尿中CPR、腹部CT検査での内臓脂肪の測定、DEXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)での骨密度、体組成の測定が可能です。
3. 糖尿病細小血管合併症の検査として微量アルブミン尿、神経伝導速度、自律神経機能評価が可能です。必要時は眼科、腎臓内科、神経内科、歯科、皮膚科等の専門診療科での診療が可能です。
4. 動脈硬化症の検査として心電図、PWV(脈波伝播速度)・ABI(ankle brachial index)検査、頚動脈エコー検査、頭部MRI検査が可能です。
5. 内分泌疾患における各種ホルモン検査、負荷試験、甲状腺・腹部エコー検査、腹部CT・MRI、頭部CT・MRI、シンチ検査が可能です。
症例数・治療・成績
令和5年度の新患外来患者388人、入院患者は378人でした。
外来診療は糖尿病、内分泌疾患、脂質異常症を中心に診療を行っています。重症患者の診療や治療方針決定までの診療を重点的に行う方針とし、病態が安定した場合は積極的に近隣の医療機関に紹介することで、地域連携を深めています。
入院診療は糖尿病の入院が最も多く、内訳は1型糖尿病10人、2型糖尿病147人、妊娠糖尿病または糖尿病合併妊娠32人、その他の糖尿病6人、糖尿病性ケトアシドーシス/ケトーシス9人、高血糖高浸透圧症候群11人、低血糖昏睡10人でした。妊娠糖尿病とともに糖尿病性ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群などの高血糖緊急症が多いのが特徴です。糖尿病教育入院は1型・2型糖尿病や妊娠糖尿病の疾患に合わせて専用のパスを用い良質な医療を行っています。入院診療を行った内分泌疾患患者数は36人で、その内訳は、下垂体疾患6人、甲状腺疾患12人、副腎疾患15人、その他の内分泌疾患が3人でした。この中には副腎クリーゼ、甲状腺クリーゼ、粘液水腫性昏睡などの内分泌救急疾患も6人含まれていました。副腎偶発腫に対しては、クリティカルパスの運用も行っています。低ナトリウム血症や低カリウム血症などの電解質異常は34人でした。意識障害を伴う急性期の電解質異常疾患も多数診療しています。
糖尿病教育入院については患者参画型クリティカルパスを積極的に使用して診療を行っています。また、入院患者を対象とした「やさしい糖尿病教室」を行っています。独自の糖尿病教育パンフレットを使用し、各職種が担当する充実した糖尿病教室(週2回、5コマ)を行っていますので糖尿病の基本である自己管理のための知識と技術を短期間で効果的に習得できます。外来患者を対象とした糖尿病教室も年に3回開催しています。
さらに人工膵臓・持続皮下インスリン注入ポンプ・持続血糖測定システム、身体組成評価システムなどの最先端の機器を用いて様々な患者さんの治療を行っています。人工膵臓は、血糖値を連続的に測定しながらインスリン溶液とブドウ糖液を自動的に調節して輸液することにより目標血糖値を達成する装置です。平成25年に最新の人工膵臓(STG-55)が当院に導入されました。周術期などの厳格な血糖コントロールが必要な症例に使用され、良好な血糖コントロールを達成しています。身体組成評価システムは令和2年に導入された最新の装置で、DEXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)というエネルギーの異なる2種類のエックス線を利用した測定方法により、全身の骨密度、筋肉量、脂肪量を部位別に測定することができます。糖尿病患者さん各々の適切な治療方針の決定や骨粗鬆症・サルコペニアの診断に用いています。
人工膵臓は、血糖値を連続的に測定しながらインスリン溶液とブドウ糖液を自動的に調節して輸液することにより目標血糖値を達成する装置です。平成25年に最新の人工膵臓(STG-55)が当院に導入されました。重症糖尿病・周術期・重症感染症・低体温療法時などの厳格な血糖コントロールが必要とさせる症例に使用され、従来の治療では得ることの出来ない良好な血糖コントロールを達成することが可能でした。重大な急性期疾患における血糖管理に威力を発揮しています。
スタッフ紹介
職名 氏名 免許取得年 | 専門医 所属学会 など | 専門分野 |
糖尿病センター長 糖尿病・内分泌内科部長 情報調査研究室長 ニシカワ タケシ 西川 武志 平成元年 | 医学博士 熊本大学大学院医学教育部 臨床国際協力学分野客員教授 熊本大学医学部医学科臨床教授 熊本大学医学部非常勤講師 日本内科学会認定医 日本糖尿病学会専門医・指導医 日本糖尿病学会評議員 日本糖尿病学会九州支部幹事 日本糖尿病合併症学会 日本糖尿病協会熊本県支部理事 アジア糖尿病学会 Journal of Diabetes Investigation Assistant Editor 日本動脈硬化学会専門医・指導医 日本動脈硬化学会評議員 日本内分泌学会代議員 日本体質学会評議員・理事 日本肥満学会 日本病態栄養学会 日本糖尿病・妊娠学会 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会評議員 | 糖尿病 内分泌・代謝 高脂血症 動脈硬化症 |
糖尿病・内分泌内科副部長 キノシタ ヒロユキ 木下 博之 平成17年 | 医学博士 日本内科学会認定医・総合内科専門医 日本糖尿病学会専門医 日本内分泌学会 日本動脈硬化学会 日本病態栄養学会 内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医 臨床研修指導医 | 糖尿病 内分泌・代謝 動脈硬化症 |
糖尿病・内分泌内科医長 ニシダ シュウヘイ 西田 周平 平成24年 | 医学博士 日本内科学会認定内科医・指導医 日本内科学会総合内科専門医 日本糖尿病学会専門医・研修指導医 日本動脈硬化学会専門医 日本内分泌学会専門医 内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医 | 糖尿病 内分泌・代謝 動脈硬化症 |
糖尿病・内分泌内科医師 イデグチ タクヤ 井手口 拓弥 平成28年 | 日本内科学会 日本糖尿病学会 日本内分泌学会 | 糖尿病 内分泌・代謝 |
糖尿病・内分泌内科医師 セトグチ マイ 瀬戸口 真衣 令和3年 | 日本内科学会 日本糖尿病学会 日本内分泌学会 | 糖尿病 内分泌・代謝 |
糖尿病・内分泌内科医師 トヨナガ テツシ 豊永 哲至 昭和63年 | 医学博士 日本内科学会認定医・指導医 日本糖尿病学会専門医・研修指導医 日本内分泌学会代議員 人間ドック健診認定医・専門医・指導医 日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医 日本病態栄養学会専門医 日本医師会認定産業医 臨床研修指導医 熊本大学医学部臨床教授 熊本大学医学部非常勤講師 日本糖尿病協会療養指導医 | 糖尿病 内分泌・代謝 動脈硬化症 人間ドック |