消化器内科|国立病院機構熊本医療センター
消化器内科
消化器内科部長あいさつ
消化器内科は消化器疾患全般にわたり救急医療から一般診療に対応しています。消化器疾患としては消化管疾患、肝疾患、胆膵疾患の全領域を扱い、それぞれにエキスパートを配しています。胆膵疾患では結石性胆管炎や胆管がんによる閉塞性黄疸に対する内視鏡的ドレナージ、急性胆嚢炎、急性膵炎や膵癌に対する治療を迅速に行っています。消化管疾患としては、特に内視鏡手術に力を入れ、胃の粘膜下層剥離術(ESD)はもとより、食道、大腸ESDを数多く行っています。また、急性胃十二指腸潰瘍出血やイレウスなどの救急疾患に対して即座に対応できる体制を整備しています。虚血性腸炎や大腸憩室炎および憩室出血も数多く診療しています。肝疾患では、肝炎から肝硬変、肝がんを包括的に扱い、C型慢性肝炎および肝硬変に対するDAAs(インターフェロンフリー)治療、早期肝がんにはラジオ波および次世代マイクロ波焼灼療法(MWA)、進行肝がんには肝動脈化学塞栓術(TACE)や分子標的薬治療および免疫チェックポイント阻害薬、肝硬変の難治性腹水に対しては最新の薬物療法に加え腹水濾過濃縮再静注法(CART)を数多く手掛けています。これらの診療には、外科、放射線科、救急科との院内連携により適切で安全に行える体制ができています。常に患者様の視点に立ち、安心・安全を基本に、新しい知識と技術を取り入れた良質の医療を提供しています。
消化器内科部長 立山 雅邦
診療内容・特色
消化器病センターは、診療部門として消化器内科外来および病棟(7階西病棟)、ならびに検査・診療部門として内視鏡室および超音波室より構成されています。2020年11月より超音波検査センターが新設され、そこで腹部超音波をはじめ造影超音波やフュージョンイメージング検査を行っています。
『消化菅疾患の診療』
治療内視鏡としては、上部消化管(食道・胃・十二指腸)では、食道静脈瘤に対して硬化療法(EIS)、 結紮術 (EVL)、およびその併用(EISL)、総胆管結石に対して乳頭切開術(EST)やバルーン拡張術(EPBD)、食道あるいは幽門狭窄拡張術、ポリープの切除術、出血例ではエタノール局注法、クリッピング法による止血術を行っています。早期胃がんに対しては内視鏡的粘膜切除術(EMR)に加え、粘膜下層剥離術(ESD)を導入しています。また下部消化管(結腸・直腸)ではポリープ切除術、EMR、ホットバイオプシー及び止血術を多用し、2013年より大腸ESDを本格的に開始しました。2013年から食道がんに加え咽頭領域早期がんの内視鏡治療(ELPS)を行っています。切除不能および再発胃がんおよび大腸がんに対しては化学療法を行っています。
『胆膵疾患の診療』
胆・膵疾患では、内視鏡的胆道ドレナージおよびステント留置術や内視鏡的胆管結石除去術、膵がんに対する化学療法を積極的に行っています。2013年より超音波内視鏡を用いた診断および治療を本格的に開始しました。細径針による吸引生検(FNA)や経胃的膵ドレナージの件数も増加しています。
『肝疾患の診療』
肝疾患では慢性疾患が多く、C型慢性肝疾患では2014年11月より経口DAAs(インターフェロンフリー)治療を開始し、現在では複数のDAAsを使い分け、非代償性肝硬変や腎機能低下などの病態に応じたテーラーメード治療を行っています。2016年4月より肝生検に代わり、フィブロスキャン、2020年からはシアウエーブ・エラストグラフィによる肝硬度測定および超音波減衰法による脂肪肝の定量評価が可能になりました。B型慢性肝炎に対する核酸アナログ治療も数多く行っています。また原発性胆汁性胆管炎症例が多く、国立病院機構肝疾患専門施設と共同で臨床研究を行い、病態解明に努めています。肝硬変症例では食道胃静脈瘤に対するEIS(L)、EVL、さらにはバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)治療を行っています。また肝硬変栄養療法に取組み、成果を上げつつあります。難治性腹水に対してはがん性腹水とともにCART(腹水濾過濃縮再静注法)を行い成果を上げています。肝細胞がんでは、早期肝がんにはラジオ波焼灼療法(RFA)、2018年4月からは次世代マイクロ波焼灼療法(MWA)を積極的に行っています。進行肝がんに対しては肝動脈化学塞栓術(TACE)や分子標的薬治療および免疫チェックポイント阻害薬による治療を行っています。近年注目されている非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の診断治療にも力を入れています。2008年4月より全国でもいち早くC型慢性肝炎インターフェロン(IFN)治療地域連携クリティカルパスを作成し運用し、現在ではIFNフリー治療地域連携クリティカルパスを運用しています。熊本県肝疾患診療連携ネットワークにおける地域中核病院として、診療連携拠点病院はもとより地域の専門医療機関およびかかりつけ医と密に連携しながら、肝炎から肝硬変、肝がんを包括的に治療しています。
研究実績
2019年4月より、全国の日本消化器内視鏡学会専門施設で消化器内視鏡検査・治療情報を登録し、集計・分析することで、医療の質の向上に役立て、患者様に最善の医療を提供することを目指すプロジェクト(JED)に参加しています。
2003年4月より日本全国の肝臓専門施設で作る国立病院機構肝疾患ネットワーク(肝ネット)に参加し、大量のエビデンスを蓄積してEBMを推進するための共同研究を行っています。院内活動では、患者との教育と交流を兼ねて「肝臓病教室」を毎月第3金曜日に開催しています。2008年年4月より全国でもいち早くC型慢性肝炎インターフェロン治療地域連携クリティカルパスを作成し運用を始め、現在ではインターフェロンフリー療法での運用を行っています。国際医療協力として集団研修コース「肝炎の疫学、予防及び治療」を通 してJICA(国際協力機構)と共に途上国の肝炎専門医師等に対する研修を指導しています。2019年10月にこれまでの総括としてエジプトでの現地フォローアップ調査を行いました。2020年にはこの実績に対して、熊本医学会奨励賞ならびにJICA理事長賞が授与されました。2021年10月に30年間の総括として論文化しました。
医療設備
電子内視鏡LUCERA(4台)のシステムに上部内視鏡はGIF-H260Z、GIF-H260、GIF-Q260(5本)、GIF-Q260J、GIF-Q230(2本)、 GIF-XQ230、GIF-XP260NS、GIF-2T240、JF-260V、TJF260V、CF-H260AZI(2本)、CF-Q260AI(3本)、PCF-Q260AZI、PCF-Q260AI(2本)、CF-230I、PCF-230などで、洗浄器はエンドクレンズ(3台)。また超音波内視鏡はオリンパスEU-ME1、GF-UE260、GF-UCT260、高周波焼灼装置はESG-100(2台)に加え、高周波手術装置VIO 300D-D-APC2が2台です。2021年にボストンスパイグラス胆管・膵管鏡システムと電気水圧式結石破砕装置(EHL)を導入しました。内視鏡検査後には7台のカバリ・ベッド全てに酸素飽和度と脈拍の監視装置としてコヴィディエンパルスオキシメーターN560を設置しています。これと同時に内視鏡検査に際してプラスティック留置針と生食ロックで静脈ルートを確保し、前投薬はドルミカムを用いています。上部消化管内視鏡検査の咽頭麻酔は、キシロカインスプレーです。入院患者のみならず外来患者にもリストバンド装着を行い、患者誤認防止に努めています。超音波診断装置はキヤノンAplio 500、Aplio i700、Aplio i800に加え、GE LOGIQ E10xを増設しました。移動検査・処置用に東芝Viamo Limitedを運用しています。RFAはRFAシステムEシリーズ、2020年より次世代マイクロ波焼灼装置Emprintアブレーションシステムを導入しました。肝硬度測定にフィブロスキャンとAplio i700にAplio i800、LOGIQ E10 xによるシアウエーブ・エラストグラフィを備えています。超音波検査室はもとより病棟での安全かつ快適な検査・治療環境を提供します。
症例数・治療・成績
年度 | 外来新患者数 | 月平均 | 新入院患者数 | 月平均 |
2015 | 2,081 | 173 | 1,798 | 150 |
2016 | 2,007 | 167 | 1,771 | 148 |
2017 | 1,481 | 123 | 1,856 | 155 |
2018 | 1,473 | 123 | 1,920 | 160 |
2019 | 1,406 | 117 | 2,066 | 172 |
2020 | 1,373 | 114 | 1,886 | 157 |
2021 | 1,432 | 119 | 1,881 | 156 |
2022 | 1,460 | 122 | 1,795 | 150 |
2023 | 1,377 | 115 | 1,934 | 162 |
主要疾患 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
急性肝炎(劇症肝炎含む) | 28 | 24 | 12 | 13 | 16 |
慢性肝炎 | 97 | 115 | 61 | 58 | 140 |
肝硬変(肝性脳症・腹水) | 254 | 268 | 235 | 211 | 235 |
食道胃静脈瘤(内視鏡的治療) | 13 | 33 | 10 | 18 | 25 |
肝細胞癌(TAE・RFA・MWA含む) | 145 | 140 | 146 | 130 | 142 |
胆嚢炎(PTGBD含む) | 18 | 4 | 8 | 7 | 11 |
胆石症 | 288 | 257 | 165 | 189 | 171 |
胆嚢癌・胆管癌(PTCD・ステント含む) | 54 | 57 | 73 | 79 | 50 |
急性膵炎・慢性膵炎 | 168 | 168 | 116 | 113 | 128 |
膵癌 | 128 | 154 | 133 | 149 | 176 |
胃十二指腸潰瘍(内視鏡的止血術含む) | 101 | 110 | 85 | 76 | 110 |
胃癌(内視鏡的粘膜切除含む) | 177 | 190 | 139 | 136 | 137 |
イレウス | 272 | 227 | 167 | 141 | 232 |
潰瘍性大腸炎・クローン病 | 59 | 67 | 65 | 51 | 54 |
大腸ポリープ(内視鏡的ポリープ切除) | 240 | 113 | 124 | 111 | 226 |
大腸癌 | 63 | 55 | 54 | 64 | 38 |
検査治療手技 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
上部消化管内視鏡検査 | 3,062 | 2,916 | 2,821 | 2,746 | 2,281 |
下部消化管内視鏡検査 | 1,966 | 1,189 | 1,614 | 1,637 | 1,694 |
治療内視鏡、経皮内視鏡的胃廔造設術 新規 | 24 | 19 | 25 | 19 | 27 |
胃廔カテーテル交換 | 74 | 73 | 70 | 61 | 67 |
胃・大腸のポリペクトミー、EMR | 348 | 273 | 316 | 326 | 349 |
内視鏡的止血術(エタノール、クリップ法) | 171 | 205 | 164 | 127 | 176 |
食道・胃静脈瘤に対するEIS・EVL | 40 | 62 | 38 | 49 | 47 |
内視鏡的バルーン拡張術 | 16 | 11 | 28 | 22 | 28 |
異物除去術 | 24 | 34 | 31 | 36 | 27 |
粘膜下層剥離・切除術 | 218 | 184 | 64 | 186 | 147 |
CART(腹水濾過濃縮再静注法) | 82 | 64 | 67 | 74 | 57 |
超音波検査 (腹部) | 9,285 (2,900) | 8,292 (2,686) | 6,806 (2,723) | 6,289 (2,611) | 11,238 (2,586) |
スタッフ紹介
職名 氏名 免許取得年 | 専門医 所属学会 など | 専門分野 |
診療部長 消化器内科部長 消化器病センター長 タテヤマ マサクニ 立山 雅邦 平成12年 | 日本内科学会指導医・認定医 日本内科学会総合内科専門医 日本肝臓学会肝臓専門医・指導医 日本消化器病学会専門医・指導医 日本消化器内視鏡学会専門医・指導医 日本超音波医学会専門医 日本門脈圧亢進症学会 | 消化器一般 消化器内視鏡 内視鏡治療 肝疾患 |
消化器内科副部長 内視鏡センター長 マツヤマ タイチ 松山 太一 平成17年 | 日本内科学会指導医・認定医 日本内科学会総合内科専門医 日本肝臓学会肝臓専門医 日本消化器病学会専門医 日本消化器内視鏡学会専門医 日本消化管学会指導医・認定医 | 消化器一般 消化器内視鏡 内視鏡治療 ESD治療 肝疾患 |
消化器内科医師 ササキ ヒロタカ 佐々木 大尭 平成29年 | 日本内科学会総合内科専門医 日本消化器病学会専門医 日本消化器内視鏡学会 日本肝臓学会 | 消化器一般 消化器内視鏡 肝疾患 |
消化器内科医師 クスモト シュウヘイ 楠本 周平 平成29年 | 日本内科学会総合内科専門医 日本消化器病学会 日本消化器内視鏡学会 日本肝臓学会 | 消化器一般 消化器内視鏡 肝疾患 |
消化器内科医師 ハナゾノ ユリカ 花園 ゆりか 平成30年 | 日本内科学会 日本消化器病学会 日本消化器内視鏡学会 日本肝臓学会 | 消化器一般 消化器内視鏡 肝疾患 |
消化器内科医師 ヤマモト ユウヤ 山本 祐弥 令和元年 | 日本内科学会 日本消化器病学会 日本消化器内視鏡学会 日本肝臓学会 | 消化器一般 消化器内視鏡 肝疾患 |
消化器内科医師 ミヤザキ ユキエ 宮崎 由理恵 令和3年 | 日本内科学会 日本消化器病学会 日本消化器内視鏡学会 日本肝臓学会 | 消化器一般 肝疾患 |
特別診療役 スギ カズヒロ 杉 和洋 昭和58年 | 日本内科学会指導医・認定医 日本肝臓学会指導医・肝臓専門医 日本消化器病学会指導医・専門医 日本消化器内視鏡学会専門医 外国人医師臨床修練指導医 APASL(アジア太平洋肝臓学会議) 熊本大学医学部医学科臨床教授 | 消化器一般 肝疾患 RFA・MWA治療 DAA治療 NASH・NAFLD PBC・AIH 国際医療協力 |
今後の目標・展望
近年増加している救急消化器疾患症例に対して、迅速かつ的確に対応できるよう技術の向上と設備の充実を図り、また肝臓病専門施設として、診療内容とスタッフの充実を図りたいと考えています。C型慢性肝炎を中心に地域連携クリティカルパスを用いた診療および勉強会を展開しています。胃がん、大腸がん、肝臓がんにつきましては熊本県がん診療連携パス「私のカルテ」を用いて、患者様に安心して均一な診療が受けられるよう診療連携を進めていきます。胆膵疾患に関しても診断から治療まで包括的な診療の向上を目指しています。
ご案内
毎週金曜日午前7時30分より消化器病カンファレンスを医局カンファレンスルーム1で行っています。 ご参加を歓迎致します。興味ある症例や診断あるいは治療に苦慮する症例があればご紹介下さい。