国際医療協力の歩み
国際医療協力基幹施設
また、翌昭和62年には当院からの海外派遣第1号として梅木民子看護婦がザンビアに2年間国際協力事業団(Japanese International Cooperation Agency:JICA)の医療技術専門家として派遣されました。昭和63年には海外からの研修生の日本での臨床実習を可能とする臨床修練病院の指定を受けました。
そしてこの年から海外派遣が本格化し、蟻田院長の湾岸戦争時の現地派遣、松村克巳医師(現小国公立病院長)のセネガルへの無償援助による新設病院の調査などが行われました。また、この年に国際医療協力を大幅に発展させる原動力となった財団法人国際保健医療交流センター(Agency for Cooperation in International Health:ACIH)が設立され蟻田院長が顧問に就任されました。
集団研修コース
”肝炎の疫学、予防及び治療”コース閉校式 (コースリーダー:杉和洋消化器内科医長)
2008年度 国立病院機構熊本医療センターにおける海外研修生の受け入れ
1 | 子供の死亡削減と国際協力セミナー | 48日間 | 8ヶ国 | 8名 |
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2 | ワクチン予防可能疾患の疫学及び対策セミナー(フランス語) | 28日間 | 5ヶ国 | 7名 |
3 | ワクチン予防可能疾患の疫学及び対策セミナー | 42日間 | 7ヶ国 | |
4 | AIDSの予防及び対策 | 28日間 | 7ヶ国 | 9名 |
5 | 肝炎の疫学・予防及び治療 | 28日間 | 8ヶ国 | 12名 |
6 | 農村医学コース | 63日間 | 4ヶ国 | 5名 |
7 | 薬剤耐性病原体の実験室診断 | 72日間 | 3ヶ国 | 5名 |
8 | 血液スクリーニング検査向上(中米地域) | 35日間 | 5ヶ国 | 10名 |
9 | 能力強化研修(母子保健対策) | 35日間 | 日本 | 2名 |
10 | 能力強化研修(ワクチン予防可能疾患) | 28日間 | 日本 | 2名 |
11 | AIDSの予防及び対策 (28日間) | 28日間 | 10ヶ国 | 10名 |
合計 | 40ヶ国 | 75名 |
2019年度 ウイルス肝炎対策セミナー
JICA理事長賞を受賞しました
国際医療協力:発展途上国における集団研修「包括的ウイルス肝炎対策」25年間の活動
2020年10月15日に第16回独立行政法人国際協力機構(JICA)理事長賞表彰式が執り行われました。例年東京都新宿区にあるJICA市ヶ谷ビル国際会議場で開催されますが、今回は新型コロナウイルス感染対策により、Zoomウエビナーによるオンライン開催でした。これまでに当院では2017年に河野文夫名誉院長が第13回「JICA国際協力感謝賞」を受賞されています。「JICA理事長賞」は国際協力事業を通じて開発途上国の人材育成や社会・経済発展に多大な貢献をした国内外の個人・団体に授与されます。今年は48個人・団体が受賞しました。北岡伸一理事長の挨拶に引き続き、オンライン形式で受賞者ごとの紹介があり、代表して神戸市看護大学南裕子学長、広島大学大学院馬場卓也教授(以上個人)、国立感染症研究所(団体)の受賞記念スピーチで終了しました。表彰状は授賞式後の10月30日にJICA九州植村吏香所長が当院にお越しになり直々授与されました。
私は専門分野である肝臓病、とりわけウイルス肝炎ならびにそれに伴う肝硬変および肝がんに関して25年間にわたり発展途上国の研修生とともに時代を過ごしてきました。その間にはC型肝炎の発見と疫学の解明、診断と治療の進歩があり、95%以上が治癒するまでになっています。B型肝炎に関しても世界的な遺伝子型の分布と病態、母子感染のみならず出生後の水平感染予防、抗ウイルス治療の進歩、化学療法や免疫抑制療法に伴う再活性化の病態と治療の進歩があります。さらには肝炎患者拾い上げ、検査、治療および治療後のフォローアップにおける行政の取組みなど、集団研修指導を行いながら研修員と一緒にこれらを学んできました。心の底から素晴らしい経験ができたことを感謝いたします。
この受賞にあたり、当院での国際協力の基礎を築かれた蟻田功名誉院長、研修コースを立ち上げられた河野文夫前院長ならびに今回受賞の機会を与えていただいた髙橋毅現院長、前コースリーダーを務められ直接ご指導をいただいた故木村圭志先生をはじめ、研修に協力いただいた消化器内科スタッフ、各部門ならびに歴代の講師および研修施設の皆様に心より感謝申し上げます。また、今回の受賞に際して推薦していただいたJICA九州およびJICAエジプト事務所、JICA本部人間開発部の皆様にも改めて御礼申し上げます。
診療部長・消化器内科部長 杉 和洋
論文化されました
- 令和元年6月に「国際医療協力:発展途上国に対する集団研修「包括的ウイルス肝炎対策」に対する25年間の活動とフォローアップ調査」の表題で熊本医学会ニューズレター、2020年18巻1号16-21頁に掲載されました。
- 令和3年10月に30年間の総括として論文化し、「International cooperation on health and medical care for viral hepatitis: 30 years of activities on comprehensive viral hepatitis control of the JICA group training program for developing countries.」の表題でGlob Health Med、2021年3巻5号351-355頁に掲載されました。
熊本医学会奨励賞を受賞しました
国際医療協力:発展途上国に対する集団研修「包括的ウイルス肝炎対策」における25年間の活動
2020年3月18日に熊本医学会奨励賞授与式が、熊本大学医学部肥後医育記念館で執り行われました。JICA国際医療協力:発展途上国に対する集団研修「包括的ウイルス肝炎対策」における25年間の活動が熊本医学会奨励賞<社会活動部門>を受賞いたしました。具体的な活動内容は、1994年から2002年にかけて集団研修コースの講師として「肝硬変と肝がんの臨床像」の講義、2003年から2018年にかけてコースリーダーとして研修の立案、策定ならびに講義、病院実習、他施設での見学研修の同行を含めたファシリテーションを行い、研修を修了したのち帰国後の肝炎対策のアクションプランを補助しました。通算25年間にわたり発展途上国の肝炎に関する知識の普及と包括的肝炎対策策定のサポートを行いました。
活動の総括として2019年10月11日より20日まで主たる参加国であるエジプトでの研修成果のフォローアップ調査と、肝炎対策に関する現地視察を行いました。WHO(世界保健機関)が2030年に設定した世界的な肝炎撲滅がほぼ達成されつつあることに驚きを感じるとともに、これまでのJICA肝炎対策コースがその基礎を築いてきた貢献度が大きいことを実感しました。この受賞にあたり、蟻田功名誉院長、河野文夫前院長ならびに髙橋毅現院長、前コースリーダーを務められた故木村圭志先生をはじめご協力いただいた皆様に心よりお礼申し上げます。
診療部長・消化器内科部長 杉 和洋
臨床研究部の設置
さらに平成20年には、第2代臨床研究部長して芳賀克夫が就任しました。2017年11月に日髙道弘が、2018年4月に富田正郎が臨床研究部長に就任いたしました。
国際医療協力のための連携大学院講座の設置
2017年11月より西川武志糖尿病・内分泌内科部長が第2代客員教授となりました。
第3国研修の開始
平成20年11月26日 スエズ運河大学“感染症コース”研修員と吉原なみ子先生、河野副院長
姉妹施設、病院の締結
その後、平成21年には、タイ国 コンケン病院、さらにエジプト ファイユーム大学と相ついで姉妹施設の締結を行いました。
エジプト
2014年10月
2013年12月
武本国際医療協力室長 エジプト・アラブ共和国、スエズ運河大学における第3国研修に講師として出張
2011年9月
武本血液内科医長 エジプト・ファイユーム大学における第3国研修に講師として出張
タイ・コンケン
2014年9月
2012年12月
2012年来熊
Twinning projects between KKH and KMC, Feb 12-18, 2012
2010年来熊
Dr. Weerasak, Dr. Jirasak, Dr. Suorn, Dr. Thidiporn, and Ms. Suwanit from KKH (Nov 13 to 18, 2010)
2010年
2009年
中華人民共和国
2002年
1994年
ザンビア
2014年
1988年
広西医科大学との国際医療協力
1934年創立の広西医科大学は70周年を迎え、盛大に記念式典が開催されました。私は、広西医科大学より招待された宮崎院長の代理として、この祝賀式典に参加しました。
中国、広西省チワン族自治区には3つの医科大学があります。このうち戦前から存在するのは広西医科大学のみで、もっとも古い歴史をほこる広西省内きっての大学です。国立病院機構熊本医療センターは昭和61年より医療協力を通して広西省の幾つかの病院と友好関係を築き、なかでも広西医科大学から多くの医師や看護師を受け入れてきました。平成14年、当時の河野部長(現副院長)が広西医科大学を訪問し姉妹病院の調印を行ってからは、この大学との関係はより一層強くなりました。
広西医科大学は広西省の中心都市南寧にあります。直行便がないため福岡から上海経由で現地へ向かいました。空港には有り難いことに夏先生と陳先生が迎えに来てくれました。夏先生とはずいぶん久しぶりにお会いしましたが、10年程前に留学された頃とほとんど変わりありませんでした。帰国後、若くして助教授から教授、そして副病院長、副学長ととんとん拍子に昇任されました。
一方陳先生は約5年前に来日されました。いずれの女性も熊本県の県費留学生で、半年間に渡って私たちの病院で糖尿病の研修をされました。陳先生と東北での学会に参加した時、陳先生の希望で魯迅記念碑を訪れました。魯迅は中国でも相当人気が高い人物のようです。以前に一度、もう7年前になりますが、国際医療協力研究のため広西医科大学を初めて訪問しました。この時は17階建ての外科系の病棟が完成して間もない頃で、今回は外科病棟の隣に23階建て内科系病棟がほぼ完成し、内装工事が行われているところでした。広西医科大学の近代化、施設の充実ぶりには目を見張るものがあります。大学だけでなく、南寧市には多くの新高層ビルが建ち並び、同時に自然の湖を利用した緑豊かな広大な公園が造られるなど景観にも十分な配慮がなされていると感じました。
広西医科大学には第一付属病院のほかに、市内に点在する8つの付属病院があり、第一附属病院だけでもベッド数は約2000あります。日本の基準ではなかなか信じ難い数ですが、この大学は毎年約1000人の卒業生を送り出していると聞きました。式典の前日には歓迎会が催されました。招待された国は、日本だけでなくフランス、デンマークなどヨーロッパの国々に及び世界の各地にネットワークを持つ国際的な大学との印象を強くしました。
式典は大学のグランドで行われ、国旗掲揚に始まり、国歌が斉唱され、続いて祝砲が鳴り響きました。それを合図に関連病院および歯科、看護学校などから70周年にちなんで70名ずつ、それぞれの施設ごとに大きな掛け声とともに隊列を組んでの行進が始まりました。きびきびとまるで軍隊の行進を見る様で、こちらも身が引き締まりました。
夕方からは大学の講堂で祝賀会が行われ、オーケストラの演奏に合わせて独唱や合唱、それにダンスや劇などが次々に披露されました。会場は満員で、座れない観客が壁際に大勢並んでいました。いずれのプログラムもすばらしいもので、「オーケストラも含めて、ほとんどが大学や病院の職員です」との説明を受けるまではプロの人たちとばかり思っていました。
フィナーレに花火が打ち上げられました。どこの花火も同じだろうとそれ程期待はしていませんでした。しかしシュルシュルシュルと打ち上げ音がすぐ近くで聞こえ緊張しました。頭の真上あたりでバンと大きな衝撃音とともに夜空を覆うように花火が広がっていきました。一斉に喚声があがり、灰が頭の上にハラハラと落ちて来ました。赤くまだ燃えているものもありました。野外テーブルを囲んで優雅に観賞するはずだったのですが、危険を感じて、そこに居た全員が避難する羽目になってしました。
これまで国立病院機構熊本医療センターは、国際医療協力研究として広西医科大学との糖尿病治療の比較を行ってきました。中国では、糖尿病に対してほぼ同じレベルの検査や治療がなされていましたが、罹病期間に比して合併症の割合が多いこと、インスリンの注射器具などに経済的な制約があることなどを明らかにして来ました。
中国でも糖尿病の増加は大きな問題となっていますが、国の政策として具体的な対策は打ち出されていないようでした。しかし糖尿病の予防や治療のためには、より一層の生活習慣改善と早期発見が重要です。この点についての認識はお互い全く同じで、次の研究テーマに広西医科大学検診センターとの共同調査を加えてはどうかとの提案がありました。
最後に広西医科大学長や第一附属病院長とも会談することが出来、70周年記念式典がお互いの友好と連携をさらに深める絶好の機会となりました。今後とも私たちの病院は医療協力を通じて国際的な貢献を続けて行きたいと思っています。
内科部長 東 輝一朗