いま、国立病院機構熊本医療センターで何が研究されているか<シリーズ138回> | くまびょうニュース | 国立病院機構 熊本医療センター

いま、国立病院機構熊本医療センターで何が研究されているか<シリーズ138回>

【277号(2020.7)】

いま、国立病院機構熊本医療センターで何が研究されているか<シリーズ138回>

がんゲノム医療について

腫瘍内科副部長
榮 達智


 近年では癌において様々な遺伝子異常が同定されており、がん化に関わるdrivermutation が発見されています。これまで各癌腫に対し効果的な殺細胞性抗がん剤の組み合わせで治療が発展してきた一方で、driver mutation を標的にし、癌腫を超えてその発がん・進展機構に応じた個別化治療を可能にすることが、がんゲノム医療といえると思います。今研究されているというよりは既に臨床応用されてきていますが、このことについてお話したいと思います。

 例えば血液内科医がBRAF 遺伝子変異と言えば有毛細胞白血病を思い浮かべますが、固形癌の分野においては悪性黒色腫を代表として、甲状腺癌、卵巣癌、肺癌、大腸癌などの様々な腫瘍で変異が報告されています。悪性黒色腫や肺癌に対しては既に適応を有したダブラフェニブが市販されていますし、大腸癌に対してはエンコラフェニブ併用療法が有望であるとする報告があります。他の癌でも低頻度ながらがん細胞におけるBRAF 変異が報告されており、これらを持つ患者さまを適切な治験あるいは患者申出療養制度を用いた臨床研究中核病院での治療につなぐ事が可能かも知れません。この遺伝子変異は一例であり、他に数多くの標的化が可能な遺伝子が存在します。それを網羅的に検出を試みるのが遺伝子パネル検査です。

 現在、2種の遺伝子パネル検査が保険収載され、搭載遺伝子数はFoundationOne®CDx で324 遺伝子、OncoGuideTM で114 遺伝子です。今開発中のパネルの中にはRNA レベルでの解析ができるものもあります。ただこれらの検査が行えるのは指定を受けたがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院のみであり、本年1 月現在で熊本県内では熊本大学病院が連携病院に指定されているのみです。また検査の適応は標準治療がない、あるいは終了見込みの進行再発固形がん患者さまです。検査結果と臨床情報は患者さま同意のもと、がんゲノム情報管理センター(C-CAT) への登録が必要です。拠点病院でのエキスパートパネルを経て、その結果を踏まえ患者さまへの説明に至るため、検査の同意取得から治療開始に至るまで3-4 ヶ月ほどは必要となります。さらに保険点数も検査で8000 点、検査結果を患者さまに説明を行って48000 点と定められています。標準治療が終わっても体力が十分に保たれ、それが数ヶ月維持される事が見込める患者さまなど、患者さまの選択は慎重に行う必要があります。

 実際に治験を含めた適切な治療に至る症例は1 割強と決して多くはありませんが、患者さまの求めがあれば適切な対応が求められますので、流れを理解しておく事は必要と思われます。


Fig1 がんゲノム情報管理センター(C-CAT)
(出典) 第2回がんゲノム医療中核拠点病院(仮称)等の指定要件に関するサブワーキンググループ(資料4)



Fig2 がんゲノム情報管理センター(C-CAT)
(出典) 第1回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議(平成30 年8 月1 日)資料1より抜粋・一部改変