医学シリーズ No.262 皮膚科科(No.10) | くまびょうニュース | 国立病院機構 熊本医療センター

医学シリーズ No.262 皮膚科(No.10)

【276号(2020.6)】

医学シリーズ No.262 皮膚科(No.10)

くまびょう皮膚科 セファゾリン供給低下始末記

皮膚科部長  

 2018 年末、後発品原薬の不溶性異物混⼊等に端を発した第1 世代セフェム系抗菌薬「セファゾリン」(CEZ)の供給低下は、入院診療に大きな混乱をもたらしました。 アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)の供給不安定が一時重なったのも災いしました。

 この件は当科にとっても大問題でした。当科の新入院患者数は年間約365 名、うち約3 割が蜂巣炎や丹毒といった細菌感染症です。起因菌はß 溶血性レンサ球菌(BHS)及びメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が大多数1) ですが、両菌に対して最も有効な抗菌薬がペニシリン系、次いで第1 世代セフェム系なのです。代替薬として第2・3 世代セフェム系などが挙がりますが、両菌に対する活性は劣り、グラム陰性桿菌など関係ない菌にまでも作用するので耐性菌の出現や菌交代現象を助長し、今後の診療への悪影響が懸念されます2)

 我々はベンジルペニシリン(PCG)に注目しました。ßラクタマーゼ産生MSSA には無効ですがBHS やß ラクタマーゼ非産生MSSA には著効します。血液培養、抗ストレプトリジン-O 抗体検査だけでなく、皮膚科ですので紫斑や水疱といったBHS 感染を示唆する皮膚所見3)からBHS が起炎菌と思われる症例を狙い、使用しました。PCG は半減期が短いので点滴なら1 日6 回投与が原則で、手間がかかるのが弱点です。しかしインタビューフォームには1 号液に溶解すれば半日は薬剤が安定しているとあり、200ml の1 号液に400 万単位を溶かして1 日3 回、または600 万単位を溶かして1 日2 回、持続点滴することでより簡便な投与が可能です。

 幸い比較的早期にABPC/SBT を使用再開できたので2019 年中6 例の使用にとどまりましたが、初期の2 例はクリンダマイシン併用、後の3 例は単独で使用し奏功しました。持続点滴はせん妄(6 例中1 例がこれで脱落)やカテーテル関連血流感染やリスクがあり、またPCG1日量1200 万単位に含まれるカリウムは18.36mEq と3号液2 本弱に相当し、腎不全患者では注意が必要です。CEZ に取って代わるまではいきませんが、皮膚感染症治療の選択肢になりうると考えます。

 今回、PCG 点滴は極力早期に終了し、その後は内服薬の第1 世代セフェムであるセファレキシン(CEX)500mg を1 日3 ~ 4(腎機能中等度低下時は2)回用いました。CEX はBHS やMSSA 中心のスペクトラムで抗菌活性は良い上に他菌への影響は最小限で済みます。バイオアベラビリティ(内服後、吸収され実際にどの程度血液中に取り込まれるか)が90%と高いのも特長です(表)。第2 世代のセファクロルは半減期が短くてアレルギーが比較的起きやすく、マイナス面が目立ちます4)。第3 世代セフェム系やペネム系、カルバペネム系は先述のごとく両菌に抗菌活性は劣る上にバイオアベラビリティは半分未満ないしデータ無しで、少なくとも皮膚細菌感染症での効果は期待できないと考えられます。

 今年1 月末からCEZ が再度使用可能になり、問題はひとまず解決しました。この経験を機に今後皮膚(に限りませんが)感染症治療において各症例に対しより適切な抗菌薬選択を考えていかねばならないと思いました。

<文献> 1) R aff A B et a l. JA MA. 2016; 316: 325-37.
2) 岡秀昭. 感染症プラチナマニュアル2020, M EDSi.
3) 西村( 平井) 千尋ほか. 臨床皮膚科. 2013: 67: 597-02.
4) 永田理希. jmed. 2017: 48: 64-67.