医学シリーズ No.260 精神科科(No.7) | くまびょうニュース | 国立病院機構 熊本医療センター

医学シリーズ No.260 精神科(No.7)

【273号(2020.3)】

医学シリーズ No.260 精神科(No.7)

せん妄

精神科医師 光崎 晃志

 せん妄は身体疾患や薬物によって惹起される、急性で変動する意識障害・認知機能障害であり、症状によって
① 過活動型せん妄
② 低活動型せん妄
③ 混合型せん妄  に分けられます。一般的な身体治療で全身管理上の問題となるのは①の過活動型せん妄であることが多いですが、②の低活動型せん妄はしばしばうつ状態と混同されたり見逃されることがあり、注意が必要です。

 せん妄の発症要因としては、①準備因子:せん妄の既往、認知機能障害、視覚障害、抑うつ、脳血管障害の既往、アルコール使用障害、高齢など、②促進因子:身体拘束、尿カテーテル、緊急入院、心配事、ストレス、疼痛、睡眠障害など、③直接因子:身体疾患、手術侵襲、薬物など、の3 点が挙げられ、治療の際には①~③のそれぞれに対する対応を行います。

 ①については直接的な治療介入が難しいため、これらの要素を持っている方ではせん妄の出現しやすい状態であるということを認識し、予防に努めることが大切です。

 せん妄予防としては、

・カレンダーや時計を用意し、日々の会話の中で時間場所や今後の予定を伝えるなど患者さま本人が現状を理解しやすいよう工夫する。
・モニターのアラーム音や疼痛などの刺激をコントロールする。

・日中は明るく、日光を十分浴びることができるようにするなど昼夜のリズムを整える。
・身の回りの物や家族の写真など本人になじみのあるものを近くに置き、安心感を与える。
・抑制やカテーテル類の必要性を適宜判断し、早期離床を促す。
などに注意し環境を整備します。

 ②に関しては、それぞれの因子を評価し介入を行い、ストレスの軽減を図ります。

 ③に対しては、せん妄を引き起こしうる薬物(下記参照)の調整やそれぞれの疾患に対する治療を行います。せん妄はその症状の特性から精神科で対応されることが多い疾患ですが、症状の裏には重大な身体疾患が潜んでいることも少なくないため、この様な疾患を見逃さないよう細心の注意を払う必要があります。

 まずは上記の予防策や薬物の調整で対応しますが、ある程度の症状が出現した場合には向精神薬による薬物療法が必要となります。しかし、せん妄治療によく使用される薬物の多くは保険適応外であり、また高齢者に対しては肺炎のリスクや死亡率を増大させるといわれています。そのため、せん妄の薬物療法を行うに当たっては本人や家族への説明を十分に行うことが必要です。また、繰り返しになりますがせん妄症状の対応だけでなく原因となっている身体疾患を見逃さないことが重要です。

せん妄を引き起こしやすい代表的な薬
化学療法薬剤、インターフェロン、ステロイド、オピオイド、NSAIDs、抗けいれん薬、三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、 その他向精神薬全般、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、抗菌薬、抗ウイルス薬、強心薬、抗不整脈薬、β遮断薬 など