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いま、国立病院機構熊本医療センターで何が研究されているか<シリーズ128回>

【257号(2018.11)】

いま、国立病院機構熊本医療センターで何が研究されているか<シリーズ128回>

KTBCを活用した包括的支援を行うことで胃瘻を回避できた1例

摂食・嚥下障害看護認定看護師
 田平 佳苗


【はじめに】
 急性期は、生命維持に関する問題の優先順位が高く、静脈栄養や経管栄養による栄養管理となる場合が少なくないです。そのため、誤嚥性肺炎予防のために非経口栄養が優先されがちです。しかし、治療のみを優先させず、患者様の「生活者」としてのQOLを低下させないことが重要です。
 脳梗塞後遺症により、誤嚥性肺炎を繰り返した患者様にKTBC(口から食べるバランスチャート)を活用し、包括的支援を行うことで胃瘻を回避できた一例についてご報告します。

【症例】
年齢・性別:80歳代 女性  入院期間:15日間
診断名:誤嚥性肺炎 既往歴:右半球脳梗塞(右麻痺)
自立度:介助により車椅子に移乗する
生活状況:老健に入所中
 医師から摂食困難な場合は胃瘻となると説明があり、家族からは「もう一度口から食べて施設に帰りたい」との希望があり、介入を開始しました。

【結果】
 KTBCを活用し、生活者としての視点を持ちながら、多職種協働で介入することでペースト食を3食経口摂取し施設へ戻ることができました。嚥下機能の一部分のみを評価せず、KTBCを活用し、包括的に介入することは「口から食べる」可能性を広げ、胃瘻を回避し「口から食べる幸せ」を守ることに効果的だと思われます。

【K T B C】

KTBC
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【経過】

  初回評価 介入内容 退院時評価
心身の医学的
視点
全身状態、呼吸状態、口腔状態の回復を促進させる。残存歯が21本残っていることは大きな強み。全身状態を整え、呼吸機能や喀出力を高める介入が必要。 ①覚醒を整え、空腹を得られるように昼夜のリズムを調整し、生活にメリハリをつける
②積極的な離床を行い、活動性を高める
③器質的、機能的口腔ケアを行い食べるための口づくりを行う、痰を出しやすくする
④解熱した時間帯に、直接訓練を行う
⑤呼吸機能を高める呼吸リハビリを行う体位ドレナージ、スクイージング、シルベスター法、離床)
⑥誤嚥性肺炎の治療と並行して上記ケアを行うことで誤嚥性肺炎増悪を回避する
食べる意欲は維持できている。今後は嗜好にあった食事なども取り入れ食欲を維持していく。全身状態、呼吸状態、口腔機能ともに強みとできるまでに改善した。今後も維持・向上していくために施設へ情報提供し、介入を継続していく。
摂食嚥下の
機能的視点
 咽頭機能が良好に保たれていることは大きな強み。食べる意欲を高め、経口摂取を開始する。5感を活用し、食物認知を高めながら咀嚼送り込みの改善を期待する。 ①離床や日常生活リズムを整え覚醒を高め、食物認知や嚥下の意識化、食べる意欲の向上へ働きかける
②5感を活用し、食物認知を高める※スプーンは持つ
③舌口腔周囲筋群マッサージ、スプーンの捕食動作で口輪筋や頬筋をはじめ口腔周囲筋群の強化に働きかける
④直接訓練は1jより開始する水分には1%のとろみを付加する
 食事中の認知機能は保たれており食物認知が高まった。しかし、セルフケア拡大ができていないため今後は自力摂取へ向けた介入を行う。並行して、唾液でペーストになるかっぱえびせんなどを用いて咀嚼訓練を行い、咀嚼力の向上を図る。
姿勢・活動的
視点
 無刺激状態でベッド上臥床の状態。積極的に離床を行い耐久性を高め、ベッドから離れ食事を行うことを目標とする。元々食事動作は全介助であった。リーチ機能は低下しているがスプーン把持力はあるため、上肢機能訓練を行い、手添えからセルフケア拡大につなげていく必要あり。リハスタッフと協働して介入する ①離床と食事は一緒に行わない(PT&病棟Ns)
②離床の時間の延長を図る(PT&病棟Ns)
③ベッド上でもリクライニング角度は45度以上とし、視空間認知を高める(病棟Ns)
④離床し、足底を床に付けることで足底からの感覚入力を増やす→覚醒維持につなげる(PT&病棟Ns)
⑤上肢機能訓練(OT)
⑥おしぼりで顔拭き、手拭き、歯磨き、整容(OT&病棟Ns)
 リクライニング車椅子での姿勢調整が可能。今後も離床時間の延長を図りスタンダード車椅子へステップアップしていく。食事動作のステップアップが行えておらず、早期から介入できなかったことは反省点。今後は手添えから自力摂取へ向けた介入が必要。他患者との交流のみで社会活動への参加はなし。今後施設スタッフと情報共有し、活動を高めていく。
摂食状況・
食物形態・
栄養的視点
 絶食中で、必要栄養量を補うことが出来ておらず、栄養状態のモニタリングをしながら低栄養を回避していく必要がある。嚥下評価後より直接訓練が開始となったため、経口で補うことができない不足栄養はPPNで補いながら栄養面のサポートをしていく。 ①嚥下調整食1jから開始する不足栄養は主治医と相談し、PPNで調整
②適宜嚥下評価を行いながら段階的に形態を上げる
③残存歯があるため咀嚼訓練を行い、咀嚼食が摂取できるようにする
④栄養データモニタリング
 ペースト食・全粥を3食全量摂取。人工栄養の併用なし。水分摂取も促していった。今後も活動量と経口摂取の維持を行っていけるように施設へ情報提供していく。

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